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2017年5月16日 - 書評のコーナー ~その39~

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覚えていますか、グリコ・森永事件。かれこれ30年にもなります。この事件をもとに作られた小説ですので、記憶が薄らいでいる人へまずは概要を。

ことの発端は、江崎グリコの社長誘拐事件から始まります。荒い手口で社長を誘拐して身代金を請求。しかもその請求額がとんでもない量で(現金10億円と金塊100kgと、とても運べない重さ)、当然身代金引き渡しは不成立。一方社長はというと、大阪のとある河川敷の倉庫から自力で脱出して線路を歩いているところを国鉄の職員に保護されるといった妙な転帰を取ります。

これだけなら普通の誘拐事件なのですが、ここからがこの事件の肝です。誘拐に続いて江崎グリコ本社への放火事件。そして青酸入りのお菓子をばらまきます。お菓子がフィルムコーティングされるようになったのはこの事件が発端と云われております。「かい人21面相」を名乗り、大阪弁で駄洒落満載の脅迫状を次々と送りつけてきます。更に事件は江崎グリコだけにとどまらず、森永、丸大食品、ハウス食品など対象は広がって行きます。

そして妙なことに、色々脅迫する割には現金の受け渡しは一度も成功していないのです。そうこうしている間に突然、「江崎グリコゆるしたる」と言い残して事件は収束するのです。

その間、脅迫文やらテープやらいろいろな証拠を残してゆくのですが、このテープの声(自分の子供のころの声)の持ち主が主人公です。

京都市内で地道にテーラーを営む主人公が、ふとしたことから家の中でカセットテープとグリコ森永事件に関するノートを発見。父や叔父が事件関係者ではないかとの疑念を抱きながら、事件の真相に迫って行きます。一方の対立軸として、冴えない新聞記者がひょんなことからグリコ森永事件の再捜索に駆り出されます。こちらは新聞社なので、経費が使えます。ロンドンまで行って情報を集めます。そして両者は別々の方角から事件の真相に近づいてゆきます。圧巻の記述やら痺れる展開はありませんが、実際の事件をもとにしているだけに、「ああ、そうだった。そんな事もあったなあ。」と膝を叩きながら読み進めます。最後の方は、どこまでが真実でどこからフィクションか解らなくなり、読後の爽快感と云うものは全くありません。ただ、グリコ森永事件を知っている世代の人には楽しく読めます。

惜しむらくは、もともとの事件が多岐にわたった事件なだけに、この倍くらいの原稿が必要ではなかったのだろうかと思われます。最後の方は、かなり駆け足で事件をなぞっている感がありました。しかし、これも読み終わってからの感想でありまして、初手からこの倍の厚さの本を買うかと問われたら、店頭でしばらく悩むでしょう。