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2016年10月23日 - 書評のコーナー ~その34~

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なぜ日本人は賽銭を投げるのか ~民俗信仰を読み解く~

難解な書籍でした。10年ほど前に、タイトルに惹かれて購入。しかしながら何を書いているのか途中で解らなくなり読み切れず。神社検定を取得して、それなりに知識も増えたので再チャレンジしてみました。

一言でいうと、新書の形をした教科書でした。民俗学に興味があり、且つそれなりの素養がないと途中で挫けます。ひとつひとつ深く掘り下げて解説するわけでもなく、事例をつらつらと挙げて原典を提示して、さっさと次の話題に移ります。賽銭の話は1割にも満たないと思います。殆ど民俗学のお話です。タイトルとサブタイトルが逆です。

最初の50頁は、平易な内容で物足らない位ですが、第二章からいきなり難しくなります。手加減なしです。

道祖神についての講釈が始まり、しかもそれは神道の知識がないと単に活字を目で追っているだけになります。東北・上越の事例の提示が教科書的に続き、気が付くと天台宗の話になっています。天台宗と云っても最澄の話ではありません。良源の話です。普通知りません。みなさんどこかで一度くらいは目にしたことのある、角大師の護符のモデルになった僧です。確かに高僧ではありますが、何故この本で取り上げられるのか理由が解りません。しかも、賽銭とは一切関係ありません。大体、寺院には賽銭箱はありませんし、柏手も打ちません。通常、寺院に置いてある箱には、「浄財」と書かれています。面白くはありませんが、我慢して読み進めます。

そろそろ賽銭の話になるかなと思って読み進めるも、葬儀や死生観についての講釈が延々と続きます。原典を提示しておりますが、自分の著書ばかり。ご自慢かっ!と突っ込みたくなります。残りあと20頁を切ったところで漸く賽銭の話が始まります。しかしながら、民俗学の観点から見た貨幣の価値と穢れの概念についてのひとくさりがあって終了。なんだこりゃ。要約すると、貨幣に穢れを載せて神に向かって投げることで、穢れを転嫁させるシステムであるとのことです。そのシステム発動の条件等々を知りたかったのですが、例によってその辺りは事例の羅列ではぐらかされました。自分の研究分野を新書の体で書いてみました的な感じで、皆に解って貰おうとか、実生活に役立てて貰おうとかいう気はさらさらない感じです。いかにも学者さんの文章です。編集部の人たちの苦労が偲ばれます。

この本の「はじめに」で、編集者の意向でこのタイトルになったことを白状しており、「はじめに」で、民俗宗教と民俗信仰の違いについてかなり掘り下げた議論をしている所から、楽しい読み物ではないことはある程度予想はしておりましたが、これほどにまで難解だとは思いませんでした。通読向けではないので、気になった章をパラパラと読むのが良いでしょう。民俗学に余程興味があるわけでなければ、購入はお勧めしません。