「風太郎」を「ぷうたろう」と呼ばせるところからして、相変わらず巫山戯た小説を予感させますが、なかなかどうして立派な小説でした。何かしら賞を狙っているのでしょうか。
冴えない主人公に強いライバル、風変わりな友人にそしてマドンナの登場。王道です。今回は忍者が主人公なのでどうなのかなと思っていましたが大丈夫でした。のっけから万城目ワールド全開です。ぼーっと読んでいると置いて行かれます。風太郎が伊賀でひと悶着起こして逐電、舞台はさっさとお得意の京都に移ります。例によってその土地の人にしか解らない地名が頻出します。京都から滋賀への抜け道の北白川別当町なんて、通ったことのある人は「ああ、あの交差点ね」と判りますが、世の中の9割の人には通じない訳で、そんな作者の自己満足的な部分も交えながら話は進みます。
風太郎の住処は吉田山の麓にあるという設定ですが、大体にして、吉田山って云われても、普通イメージ湧かないでしょう。京都市左京区の京都大学の脇にある、まあ京都市の端のほうにある小さい山であります。山頂には吉田神社が鎮座しておりますが、登山というほどの高さはなく近所の人が散歩ついでに立ち寄るという程度の山です。その風太郎のあばら家へ、風変わりな友人や風変わりな老人、はては貴人までもがやってきて、単調な風太郎の生活にイベントを発生させます。清水寺に仕事に行かされたり高台寺にお使いにいったり。祇園では刃傷沙汰に巻き込まれ、そして巻き込まれついでにとうとう大阪夏の陣に参加してしまいます。時代的には今流行りの真田丸の頃でしょうか。何の因果か城内への侵入がミッションとなってしまった風太郎、そこに立ちはだかる史上最強の敵。勝ち目は限りなく0%に近い状況で、昔のライバルが味方になって強敵と戦う展開。なんだ、このドラゴンボール的な展開は。少年誌の王道パターンではないか。これを臆面もなく長編小説で書いてしまうところがある意味凄い。
しかしドラゴンボールと違って神龍復活はありません。当たり前の様にバッタバッタと人が斬られて死んでゆきます。主人公もサブキャラも敵も味方もお構いなく斬られてゆきます。もの凄い勢いで人が死んでゆきます。展開は重くなる一方です。気分もどよーんとしてきます。それでもそこは描写の軽やかさからか、厭味なくもたれず読めます。胃もたれしない天婦羅の様です。それどころか、最後のほうには、前作「プリンセス・トヨトミ」を読んだ人へのボーナストラック的な部分も出てきてサービス精神旺盛であります。
割と厚めの本ですが、十分読み通せる内容となっております。忍者もの嫌い、歴史もの嫌いという人でも大丈夫です。ひとまずこれはbuyです。