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2015年11月30日 - 書評のコーナー ~その28~

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天空の蜂

 

とある本屋のコミックコーナーにて。

たまたま「天空の蜂」上下巻と目が合いました。何気なく手に取ると帯には映画化の文字が。しかも原作が東野圭吾ときては、原典をあたらねば。聞いたことのない題名ではありましたが、迷わずゲット。600ページもありました。600ページの文庫本が上下巻2冊のコミックに収まるという事は、内容が薄いのかなと危惧していましたが、大丈夫でした。逆にどれだけ省けば2冊に収まるのか不思議なほどです。

敦賀にある高速増殖炉「新陽」(もんじゅのことでしょう)の真上に、遠隔操作された無人のヘリコプターがホバリング。燃料切れで落下するまでに、全国の原子力発電所を停止せよという犯人からの脅迫状が届きます。原子力発電所の弱みと問題点を厳しく浮き彫りにしております。しかも内容が濃い。かなり入念に取材をしていたのでしょうか、緻密な描写で情景が浮かんでくるようです。果たしてヘリは落ちるのか、原子力発電所は止まるのか、中盤以降犯人の動機についての語りが始まると、動機の解明に目を取られてヘリは落ちても落ちなくてもどちらでも良くなってきます。作中には原発推進派・反対派双方の意見も出てきておりますが、どちらに肩入れするわけでもなく、古館一郎よりも中立的であります。

その一方、作中の「新陽」所長グループは当初、原発の上は飛行ルートから外れているのでヘリが向かってくるなんてありえない、そういう取り決めになっているのだと言い張ります。しかし、普通に考えると悪意のある第3国から見ると原発は格好の標的であることは明らかです。そしてその次には、ヘリが落ちでも大丈夫、倒壊もしないしナトリウム漏れもあり得ない、たとえ大地震が起きても破損はしないし放射線漏れはありないと言い張ります。しかし現在のわれわれは、地震と津波で福島の原子力発電所が壊滅して大変なことになっていることを知っています。驚くべきことは、これが20年前に書かれた小説であるという事です。現在でも十分通用する内容です。

特に感動はしませんし、爽快感もありません。しかしながら、一考する価値のあるテーマが詰まっております。ここらが、今頃映画化の一因となっているのでしょう。