これ見よがしに印籠を掲げて「これにて、一件落着~!」と愉快そうに叫ぶ、矍鑠としたお爺さんのお話ではありません。本文中には印籠は一切出てきませんし、諸国漫遊の旅に出る気配もありません。
「光圀」がまだ「光國」であった頃の青年期~壮年期の物語です。強いて言うならば、傾奇者時代の「光國」。漫画「花の慶次」主人公の前田慶次にイメージがダブりますが、前田慶次よりは相当ギラギラしています。
そこそこの厚さの本なので、例によって前半1/3は、光國の生い立ちとその取り巻き、生活環境についての事細かな描写から入ります。何を言っているのかさっぱり解りません。正直なところ、この本自体が結構ネガティブな内容の話なのですが、その中でも一際ネガティブな話が延々と続きます。我慢が必要です。しかし話が転がり出すと一気に読了できます。しつこい様ですが、テレビの「水戸黄門」の雰囲気は微塵も出てきません。「光國」という名の全くの別人のお話と割り切った方が良いです。
内容的には、儒学・朱子学そして仏教のその道の大家が次々登場して、話を進めてゆきます。そしてそれぞれの学問と美学とでも申しましょうか、主に儒学との相違点を対立軸にして話が展開して行きます。しかし予備知識は要りません。最初をじっくり読んでいれば、後半は上手に乗せてくれます。そして後半では、前半で活躍した人たちがもの凄い勢いでバタバタ死んでゆきます。しかも、刃傷沙汰で死ぬのではなく、殆どが病死あるいは自然死です。読んでいて気分が滅入ってきます。光國に感情移入して読んでいると、「何で、儂だけ生き残っているのじゃぁ」と叫びたくなります。
従って、読後の爽快感は余りありません。しかし何だか少し賢くなった感じがします。薀蓄たっぷりの漫画の原作を読んだような感じです。
20年前に少年ジャンプを読み耽っていた人たちにとっては、面白く読める小説だと思います。しかししつこい様ですが、「水戸黄門」がお好きな方には、全くお薦めしません。