最近、書評ばっかりですいません。
「このミステリーがすごい 第1位」「2012本屋大賞ノミネート作品」ときたら読まないわけには行かないでしょう。
日本のアパート兼実験室、合衆国、そしてアフリカ。3つの地域で起こる事件が微妙な間合いでリンクしてゆく。600ページの厚みならではの展開です。
内容的には、冴えない大学院生が命の危険に曝されつつ半ば強制的に新薬の開発に狩り出され、一方アフリカのコンゴでは村ごと殲滅の大量殺戮(ジェノサイド)が進行し、そして合衆国では大統領はじめ重鎮の人々がそれを隠そうと悪巧みと権謀術数に走る。ざっくりそのような場面設定で、読み物としては600ページの厚みなりに読みごたえはありました。
では、他の書評に書かれているようなサイエンスミステリーなのかというと、理系の私的には、用語がそれっぽいだけで、「ああ、その手があったか!」と悔しがるようなものでは全くありませんでした。瀬名秀明著「パラサイト・イヴ」の方が、よほど「うーん、そう来たか」感が強かったです。
さりとて、あまり小難しい内容にすると読んでいる方はとっつきにくいし、実験室の場面になる度に飛ばし読みされたのでは堪ったものではないので致し方ないものとは思います。従って、ここは「サイエンスフレーバー」的な読み物と割り切った方が読みやすいかと思います。理系の人たちはあまりスイッチを入れずに「ふんふん、なるほどね」で流した方が軽く読めます。
この著者の他の作品は読んだことはないんのですが、最後の方のエグイ描写は作品の品位を落とす蛇足かと思います。他にもやりようはあったのでしょうが、書いているうちに「ん?ジェノサイドの場面を描くのわすれた。ええいっ、この辺りで書いてしまえっ!」的な、やっつけ仕事感ありありでした。非常に非常に惜しいです。
読み返すことはないと思うので、借りるかあるいは文庫版待ちと評価します。ハードカバーで取得するのは少々お高いと判断します。