六月のぶりぶりぎっちょう
題名から推測できるように、万城目学氏の著書です。八月の御所グラウンドの続編ではないのですが、少しかすっている感じのつながり方です。
万城目氏の作品は、「ホルモー」しかり、「しゅららぼん」しかり、意味がありそうで意味のない造語をタイトルに持ってくることが特徴的なのですが、この「ぶりぶりぎっちょう」に関しては、造語ではないのです。平安時代に童子の遊びとして広まった遊具の名前で、万城目氏はこの遊具のことを知ったときに、これは自分が書かなければいけないと思ったそうです。
本書は、題名にもなっている「六月のぶりぶりぎっちょう」と「三月の局騒ぎ」の二作品が収められております。「六月のぶりぶりぎっちょう」は、本能寺の変を万城目ワールドで解釈した、密室殺人あり時空の歪みあり空間の歪みありと何でもありのドタバタ劇になっております。これはこれで面白いのですが、私個人的には「三月の局騒ぎ」が一押しです。
20年ほど前の京都の女子寮が舞台です。その女子寮では、入寮者を女御(にょご)と呼び、寮の部屋を局(つぼね)と呼びならわしていたそうです。その一癖も二癖もありそうな女子寮での日常を書き記した小説ですが、お得意の一人称で書かれており、創作話であることは百も承知ながら、主人公のリアルな自叙伝ではないかと思わせるほど精緻な筆致で書かれております。
万城目氏お得意の北白川近辺の描写を交えつつ、色々な登場人物がそれなりの役割を持ちながら登場するのですが、その女子寮の女御のひとりである、謎多き清(きよ)の正体が明かされたときは、「うわっ やられたっ!」と叫びそうになりました。もちろん仕組みを知ったうえで読み返しても鑑賞に堪えうる作品であることは間違いありません。
出来うることなら、八月の御所グラウンドを読破した上で、手に取っていただくことをお勧めします。