恐山温泉
そう、イタコの口寄せで有名なあの恐山です。第2回の温泉蘊蓄講座で酸ヶ湯を紹介しましたがその時ついでに恐山にも行っていたのです。なかなか行けるところでもないので無理して足をのばしました。青森空港からレンタカーで一路北へ。田舎道で信号は少ないとはいえ割と時間がかかりました。到着したらすでに昼下がり。あわよくばマグロで有名な大間へ行こうと欲張っていましたが到底無理なので止めました。
ナビで恐山が近づいてくると左手に青々とした美しい湖が見えてきます。宇曽利山湖(うそりやまこ)です。強酸性の湖で特殊な例を除いてはほぼ生物は生息できないとのこと。道なりに進むとやっつけ仕事で作ったような三途の川が左手に見えます。その先の緩やかな左カーブを曲がると大きな駐車場が広がっており、かなり観光地化された佇まいに少し落胆します。おどろおどろしい気配は微塵もありません。それでも大したもので一歩境内に足を踏み入れると急に恐山っぽくなります。
山門から本堂に至る道すがら汚い小屋が建っています。何だろうと興味本位で近づいてみると驚いたことに温泉でした。そしてちらりと中を覗くとなんと奇麗なお湯。しかしまさか境内に温泉があるなんて知らなかったので入浴の時間など確保していません。しかも手元には小さいタオルのみ。後ろ髪をひかれながらお寺に参拝します。本堂の左手、宇曽利山湖の方に進むといわゆる賽の河原と呼ばれる荒涼な風景が広がっています。テレビでよく見る光景です。あちこちで高温の硫黄が噴出していてそのため草木が生えないようです。
賽の河原は思ったよりかなり広く、あちこちで石が積み上げられておりました。荒涼とした風景に積み石と風車、その向こうには青々とした湖が広がっているという、これぞ恐山といった風景が広がっております。一切の生命活動を拒むような茫漠とした風景です。ここに来たからには賽の河原を徹底的に見るべきなのですが、どうしても温泉が気になります。積み上げた小石の山の横で硫黄の噴気孔が沸々している典型的な光景を見ていても、心ここにあらずです。今宵の宿の八戸までの移動時間を逆算して、途中で賽の河原を後にして小さいタオルを握りしめて風呂にダッシュしました。
薄汚い小屋には一丁前に温泉成分分析表が掲げられています。慌てて撮ったので自分が映り込んでいます(泣)。pHは、堂々の1.89!! 溶存物質も4.269g/dlと申し分なし。詳細は書かれておりませんでしたが循環ろ過の装置などあるわけもなく、源泉かけ流しあるいは75度の源泉温度を下げるために加水しているだけと思われます。
戸を開けると湯舟の手前には使い込まれた簀の子と粗末な脱衣かごがあるのみ。先客あり。湯温が高いのか、すでに真っ赤に茹っています。慎重に入湯。湯舟は乳白色に輝いていますが、透明な湯です。湯舟に析出した温泉成分が窓から差し込む陽光に照らされて乳白色に見えているのです。流石の強酸性高温泉。皮膚がピリピリします。湯舟に浸かって5分程度。満足です。今までで一番印象に残る温泉でした。恐山にて思わぬ温泉に入れた愉悦に浸りながら、ほくほくとして帰路に就いたのでした。