温泉ソムリエの蘊蓄講座　～第4回～

入之波温泉　山鳩湯

 

鄙びた温泉はお好きですか？

温泉街もなく、宴会場もなく、カラオケや豪華な食事もなく。ちゃぶ台の置かれた6畳一間には部屋風呂はもちろんのことトイレもなく、襖一枚隔てればそこは湿った廊下。そして辛うじてスマホの電波は届くもののYou Tubeを見るにはあまりにも薄い電波事情。ただただ、日がな一日湯に浸かり、夕食は山菜や猪肉などの山家料理をつつく、世間というものから遠く離れた温泉地。

入之波（しおのは）温泉山鳩湯は、奥吉野にあります。大台ケ原へ行く道すがら、ダム湖畔の細い道をくねくね進んだ突き当り。夏場の外来入浴が大人気で、昼下がりに訪れると駐車場難民は確定。宿の駐車場は狭く、細い山道に縦列駐車がずらりと並びます。しかし、外来入浴の５時を過ぎると途端に車が消えます。



 

 

 

 

 

 

 

温泉宿へは道路から階段を下りて行きます。階段を降りると「山鳩湯」の暖簾が出現。受付でチェックインを済ませて、宿泊する部屋はさらに階下。そして目的の温泉はさらに下。

　内風呂は大きな湯舟とL字に並んだ洗い場。湯舟はヒノキの丸太を並べて設えているのですが、温泉成分が析出して陶器のような厚みになっています。定期的に重機で剝がさないと析出物で湯舟がなくなってしまうそうです。露天の方は欅の切り株をくり抜いて作られておりますが、こちらもやはり温泉成分の析出が激しいです。

内湯の端にお湯の吐出口があり、ジャバジャバお湯が出ています。鉄の含有量はそれほど多くはないのですが、なぜかとても鉄の匂いがします。温泉の湧出量は380ℓ/分と豊富です。ナトリウム－炭酸水素塩泉。濃度は4.24ｇ/ℓと高濃度です。そりゃ、湯舟も大変なことになります。ただ、湯温が39度と微妙に低めなので、春夏でも長湯しないと落ち着かず、秋冬は厳しいものがあると思われます。露天風呂は内風呂から湯を引いているので更に湯温は低くなります。

 

　余りにも有名になりすぎて、日帰り入浴は芋洗いの様ですが、宿泊客は存分に湯を楽しめます。つげ義春の世界ほどディープではないけれども、それなりに鄙びた温泉を楽しみたい人にはお薦めです。