あの子とQ
訳の解らない題名からご推察の通り、万城目学氏の小説です。主人公は現代に生息する吸血鬼一族の末裔、嵐野弓子。だが、いたって普通の女子高生。吸血鬼の末裔と言いながら人間の血を吸うわけでもなく、平々凡々と普通の高校生活を送っています。
そんな弓子にQと呼ばれる妙なトゲトゲの物体が憑りつきます。なんでも、17歳の誕生日までに人間の血を吸わないかどうかを監視に来たと。あまりにも突拍子もない話なので、詳しくは本文を読んでください。最初は鬱陶しくQを嫌がっていた弓子ですが、とある事件を契機にQと離れ離れになります。万城目氏には珍しく青春小説要素ありありですが、全然ほろ苦くないのです。男子校出身ならではの妄想の香りがします。内容的にはどんでん返しなく、派手な伏線回収もなし。なのでこれ以上詳しく書くとネタバレになるので書けませんが、文体のセンスが良いことは間違いなしです。
一人称の語り口なので、一人ツッコミのセリフが随所にありますが、これがいちいちお上手なのです。また、本格ミステリーではないので、描写は実にアバウト。本格ミステリーでは塀の高さやドアの大きさ等々こと細かく描写しないといけないのですが、本作は「ドアを開けたら真っ暗だった」的な非常にアバウトな描写でテンポよく読み進められます。多少整合性のない事柄があっても「まあ、面白いからいいか」とスルー出来ます。
初めて万城目氏の本を読む人でも楽しめますが、前作の登場人物を入れてみたりと、コアなフアンへのサービスも忘れません。
「ヒトコブラクダ層ぜっと」で訳の解らない方に突っ走ったかと思うと、本作のような良い小品を書いてみたりと、振れ幅が多くて読み手としては困惑します。
2回目を読むかと言われれば読まないと思いますが、面白いから読んでみたらと人には薦めたくなる一品です。