黒牢城
2022年上半期直木賞受賞作です。因みに芥川賞と直木賞は年に2回発表されます。
直木賞以前に山田風太郎賞はじめ「このミステリーがすごい!」1位になったりしていたので2021年の年末に購入。有岡城(伊丹城)城主の荒木村重が主人公の小説という事でしたので、早速現地に赴きました。有岡城は現在のJR伊丹駅となっており駅前には城跡の碑の残る公園があります。この公園が当時の本曲輪です。
当時の有岡城は伊丹の街全体を堀や柵で囲って城内に囲い込むいわゆる惣構(そうがまえ)と呼ばれるシステムを採用して織田の軍勢に対して籠城しておりました。範囲としてはJR伊丹駅から西にのびて、ほぼ阪急伊丹駅の近くまでに及びます。散策には有岡城のHPが参考になります。作中には城内の砦が良く出てきますが、中でも上臈塚砦は頻出ですので抑えておいたほうが良いです。現在ではちょっとした広場になっています。
本作は黒田官兵衛が有岡城の牢に幽閉される所から始まります。分厚い本ですが中身は4章に分けられており、それぞれ別日のエピソードとして書かれているので何が何でも一気に読まないとという訳でもありません。それぞれの章では城内に怪奇な現象が起きます。それを荒木村重が何とか解こうとするのですがもう一歩のところで解けません。城主が部下に相談するわけにも行かないので牢に幽閉されている黒田官兵衛に助けを求めるという方式で話が進みます。同じパターンです。最終的に牢の官兵衛に相談に行くことは100も承知なのですが、飽きずに読ませるところがテクニックなのでしょう。読者は荒木村重目線ではなく第三者目線です。が、斜め上に漂いながら眺めるといった目線ではなく、村重と従者に極めて近い位置で会話を聞いているような距離感です。ソーシャルディスタンス的に問題ありの距離感です。怒鳴りあいのシーンでは唾が飛んできそうで避けたくなります。
城中の謎解き自体は膝を打つようなものではありませんが、読み進めるにつれ籠城している城内の疲弊感や焦燥感は伝わってきます。この巧みな描写技術が直木賞たる所以なのでしょうか。また使用されている漢字熟語は高難易度です。時代小説のテイストは濃厚ですのでこの時代の武将の勢力図が頭に入っていると尚楽しく読めます。漫画「へうげもの」・大河ドラマ「麒麟がゆく」・ゲーム「信長の野望」を嗜んでいる方は面白く読めます。
長編だけに苦行を強いられることもある直木賞ですが、前回受賞の「テスカトリポカ」とこの「黒牢城」は推しです。