四畳半タイムマシンブルース
森見登美彦氏の最新作です。全くの新作ではなく、別の人の原案に森見氏の小説キャラクターを重ねてみましたという作品です。キャラクターは十年以上前に書かれた「四畳半神話大系」に出て来た登場人物です。四畳半神話大系はとても面白い話なのですが、余りにも腐男子臭が強くて好みの分かれる作品でしたので敢えてこの書評のコーナーでは取り上げておりませんでした。ですが、本作品を読む大前提として四畳半神話大系は必読です。
四畳半神話大系を読んだことのない人にざっくりと内容解説をしますと、主人公は例によって森見氏お得意の腐れ大学生です。京都大学工学部3回生で下鴨幽水荘という名前からしておんぼろな3階建ての木造アパートに住んでいます。間取りは当然ながら四畳半です。クーラーなんて文明の利器はありません。カタカタ音のする扇風機が熱風をかき回すだけです。主人公が大学一年の時にとあるサークルに入ります。そのサークルには小津という同期がいるのですが、人の恋路を邪魔することに生きがいを感じ、人の不幸をおかずにしてご飯が食えるという、これまた変わった人格です。幽水荘には樋口氏という万年学生で周りから師匠と崇められている妙な人もいます。すでに何回生かも不明です。そんな樋口氏が訳の分からないご託宣を主人公に授けて場をかき回します。学生が主人公の青春小説ですので当然マドンナ役の女性も出てきますが、この彼女も一癖あります。そんな彼らが別に何をするわけでもなく京都の夏の夜を徘徊するだけの話なのですが、それぞれの登場人物に癖があり過ぎて、読んでいて胸焼けしそうになります。
そんな彼らが本作では、ひょんなことからタイムマシンを手に入れてしまいますが、当然ながらろくな使い方はしません。下鴨幽水荘唯一のクーラー付きの部屋に引っ越した主人公ですが、クーラーを堪能する間もなくある日リモコンを小津に壊されてしまいます。タイムマシンを手に入れたそんな彼らがすることはただ一つ。昨日に戻ってリモコンを入手することです。このつまらない発案から時空が歪むかと思う位くだらないドタバタ劇が繰り広げられます。本のボリュームは少なく変な仕掛けもありません。さらっと読めて「ああ面白かった」という内容です。しかしこの本を読む前には濃厚で男臭くてライターで焼いたするめの匂いのする「四畳半神話大系」を読んでおくことをお勧めします。