夜は短し歩けよ乙女
京都の吉田山・百万遍周辺の4畳半アパートに生息する変態ヘタレ大学生の生活を書かせたら日本一の森見登美彦の作品です。今回の主人公はやはりヘタレ大学生ですが前作「太陽の塔」の主人公よりは変態度は低く設定されております。が、話の本筋はヘタレ大学生が後輩の女子学生の後を追って京都中を徘徊するという、良く考えるとやはり変態ヘタレ大学生のお話でした。
話は4部から構成されており、それぞれ舞台が違います。まずは京都随一の繁華街である先斗町から木屋町界隈でのグダグダのお話。酒場を漂う女子学生の後を追って主人公が悲惨なまでのアクシデントに巻き込まれます。次いで下賀茂神社界隈の古書市での話。これもまた女子学生の後を追って古本屋を転々とする主人公がいわれのないアクシデントに巻き込まれます。そして3話目は京都大学構内の11月祭でのドタバタ劇。女子学生を探す主人公の誠にくーだらない話が延々と続きます。移動するコタツを学園祭事務局が追いかけたり、そこへパンツ総番長が降臨して話を混ぜっ返したり。それに絡んで当然主人公もトラブルに巻き込まれます。話が大学構内限定で進みますので京都大学の本部と教養部の構内図が頭に入っていないと景色が浮かんできません。しかし知っている人にはなるほどコタツはそこを動くのか、そこから飛び降りるのかと情景が頭に浮かびます。果たしてどのように落ちをつけるのか、あるいは落ちはないのだろうかと心配しながら、色々な伏線を残して最終話へと収束して行きます。最終話は例によってクリスマスのお話です。この作家さんは彼女の居ない腐れ大学生を、クリスマスで浮かれる街中に放逐するのが好きなようです。作者は個人的になにかクリスマスに恨みでもあるのでしょうか。しかも今回はヘタレ大学生に風邪までひかせて。風邪を引いた主人公がどうなるかは読んでからのお楽しみです。
大笑いして読むような本ではなく、かといって正座して読むような格調高い本でもありません。空き時間にパラパラ捲って1週間程度で読む感じです。これをファンタジー作品と評するかどうかは悩むところではありますが、時々文学的な上手な表現も混じっていて、「おお、お上手」と感心するところもありです。「太陽の塔」同様、合う合わないのはっきりした作品です。