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2019年8月15日 - 書評のコーナー ~その58~

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ニムロッド

 

芥川賞受賞作品です。最近の受賞作品では「火花」「コンビニ人間」以外はどうにも読む気になれなかったのですが、ビットコインのマイニング絡みの内容とのとこでしたので、読んでみました。しかも単行本ではなく、芥川賞受賞作2作が収載されている「文藝春秋」で読みました。

登場人物は、主に3人。サーバー管理会社社員の主人公とその彼女、そして主人公の先輩で、訳あって名古屋勤務になった風変わりな人です。数ページ捲ったところで「ん?これ、だれのセリフ?」となります。純文あるあるです。サラサラ読ませてもらえません。そして、登場人物が唐突に心の闇を語りだします。文中の話題は、ビットコインのマイニング、出生前診断、飛べない飛行機の話やらバベルの塔やらと色々飛びます。そして、終いには時制というか時空もぐちゃぐちゃになってきて、気が付いたらバベルの塔の中で飛行機を吟味しております。ではどれがメインの話かというと、どれもメインではなくすべてが中途半端な状況で話は突然終わります。マイニングが成功するわけでもなく、飛行機が飛ぶわけでもなく、もちろんバベルの塔は完成しません。さて、どのように評してよいのやら。確実に言えることは、エンタメ性はゼロです。限りなくゼロです。伏線の回収も一切ありません。読んでいて、「ああ、純文ってこういうことね」と思ったのが、登場人物が全員何らかの闇を抱えていてそれに目を向けまいとして、いじいじと生きているということでした。そして、それを事細かに描写しております。これだけは解りましたが、それでよいのなら、純文学の売り上げが伸びないもの首肯できる話です。「純文学は芸術だ」と言われてしまえばそれまでなのですが。

「文藝春秋」には選考評も載っており、「カタルシスを感じる」などと書かれてはいるものの、逆にこれを評している文芸界にカタルシスが必要なのではないかと心配してしまうほどです。ただでさえ活字離れの進む中、あえて純文を読もうという人はなかなか増えないと思います。文芸のカタストロフィは目前です。

芥川賞の候補には、変人コメンテーターの古市憲寿もノミネートされておりましたが、選考評では割とディスられておりました。芥川賞は公募の文学賞ではなく、一般文芸誌に掲載された作品の中から選考委員が選考して俎上に載せて、賞をもらうかどうか勝手に決める訳なのですが、半端に有名なだけに勝手に候補にされて、挙句こき下ろされて気の毒な話です。まあ、候補になったというだけで終生自慢できるのでこれはこれで羨ましい話ではありますが。

話がずれました。芥川賞受賞作なので、話題のために一度読んでみても良いかとは思いますが、半沢直樹やハゲタカ、伊坂幸太郎好みの人は、手を出さないのが無難でしょう。