大体の人は、ここ迄読んだ辺りでもう頭の中は一杯になってきます。お待たせしました。漸く検査の開始です。注射が済んだところで、左側臥位になります。そして、歯で内視鏡を噛んでしまわない様にマウスピースをくわえます。
思わず噛み締めてみました。プラスチック製でかなり硬いです。噛み締めると唾が気になり出しました。飲み込んでみようとしたものの、咽の麻酔が効いているので上手く飲み込めません。それでも上手に舌を使って少し飲み込めました。中途半端に噛んでしまうと、妙にこめかみに力が入ります。力が入るのに口が締まらないので、すごくストレスが溜まります。顎の蝶番が痛くなるほど噛んでも口は閉じません。半開きの口の中で舌が泳いで、更にこめかみに力が入ります。そのうち、咽が苦しくなってきてお腹に力が入ってきて、後ろで看護婦さんが何を言っているのやらさっぱり判らなくなってきます。かるいパニック発作です。
そうこうしている間に『では、はじめます。』黒いカメラが口の中に入ってきて、舌を押し付け咽の奥でウゴウゴ動いている。咽が詰まって息が出来ない。歯ブラシが10本くらい咽に当たっている感じがする、おえっとなる。唾が飲めない、なんかよく解らないけど息が出来ない、唾が溜まって来る、でも飲み込めない、ああ唾で溺れてしまう。いままでの人生が走馬灯の様に過ぎ去って行く。ううっ、思わず手が出てカメラをわしづかみにして、引っこ抜いてしまい、本日のカメラは中止。困り顔の医師と看護婦。台上でぜいぜい云い乍ら、顔中よだれだらけで糸を引き乍ら俯いている患者。非常に気まずい雰囲気が漂っています。最悪の場面です。
この人、何でこんな事に。いったい何がいけなかったのでしょうか。実は、マウスピースをギュッと噛み締めた時点で、既にツボに嵌っていたのです。試しに指二本を縦にして前歯でくわえてみて下さい。唾を飲み込むのにかなり難渋するはずです。
そもそも口が半開きでは物は飲み込めないのです。では、どうすれば良かったのでしょうか。正解は、『唾液は口の横からだらだら流す』です。なんてみっともない、と思うでしょうが、こちらは唾液が流れ出るのは当たり前として、それが証拠にきちんと涎掛け迄用意してくれております。
唾液は飲み込まない。首の力を抜く。検査中はため息の様な呼吸をする。これだけで、かなり違ってきます。