京都ぎらい
市井には「京都を歩く」「まだ発見されていない京」など、京都を礼賛する書籍は数多ありますが、「京都ぎらい」と皆の憧れの京都をディスる書籍はついぞ見たことがなかったので中身も見ずに購入してみました。
京都人の腹黒さ、京女のいけず、町屋の中のヒエラルヒー、向こう三軒両隣の厭らしさ、などが歴史風俗など社会学的見地から理論立てて書かれているのかと思っていたら、これがまた近年稀にみるぐだぐだの雑文でした。
本書の京都ぎらいの論理的根底は、自身の実体験と偏見であり決して文献や記録に基づくものではありません。著者は右京区の嵯峨野の出身でありますが、彼が大学に進学して生活の拠点を洛中(秀吉が京の安寧を図るためにお土居という土塁を建築してその中を洛中、その外側を洛外と呼称しておりました。詳しくはネットで検索してください)に移したことろ、思いもかけず京都市内住民同士でのごく自然な地域差別に直面したことが、本書作成の大きなモチベーションになっているようです。著者によるとどうやら、京都人とは洛中の人のことを指すのであって、洛中の人から見ると、「嵯峨野の住人などは洛中とは言葉のイントネーションも違うし、気軽に京都人を名乗らんでほしいわあ」と言っているのだなどと半ば被害妄想的に話を展開させております。なので、文章にはあまり説得力はありません。また、この手の僻みっぽいエピソードが随所に盛り込まれており、剰え同じエピソードを何度も引用しているのです。前半はまだ付き合えるのですが、後半になってくるとおなか一杯になってきて、「この粘ちっこさ、あんたもじゅうぶん京都人やわ。」と大阪出身で神戸在住の私なんかは胸やけがしてきます。
これも洛外出身の人には心を打つものがあるのでしょうか。何やら、一時はベストセラー一覧にも載っていたようですが、人に借りて少し読んで「ああ、なるほどね」で良いと思います。